Intel486/i80486   32ビット・マイクロプロセッサ

Windows95とともに。

i486DX4-100
i486DX4-100
i486SX-33
i486SX-33
  • 1989年4月発表 (i486DX)
  • 動作クロック周波数:25MHz
  • 集積トランジスタ数:120万個
  • 製造プロセス:1μm

 

i80486(Intel486)プロセッサの活躍した時代は、ちょうどMicrosoft Windowsがビジネスに普及を始めた時期と重なります。徐々にパソコンはオフィスに入り始めてはいたものの、ワープロ代わり(一太郎Ver.3)やらコンピュータの端末代わり(3270エミュレータ)、プレゼン作成ツールソフトの元祖、GEMなんていうソフトなどをポツリポツリと使い出していた程度でした。ネットワークもインターネットではなく、汎用コンピュータ用の専用回線や、パソコン通信と呼ばれた電話回線を経由する接続でした。

 

NECのハイエンドパソコンに486DXが搭載されたのは翌年の1990年でしたが、パソコンに486SXが搭載されたのは1992年になってからです(PC-9801FA)。そしてWindows普及に弾みのついたWindows 3.11Jが国内で発売されたのはさらにあと一年、1993年まで待たなければなりませんでした。i486DX発売開始後4年も経過していました。

 

Intel486プロセッサは386までのプロセッサとはコアの設計手法が異なっていました。マイクロプロセッサは世代を重ねるうちに、並列処理ビット数を増やし、命令セットを増やし、その処理を高速にするために動作クロック数を上げるという形を繰り返していました。ところが、プロセッサの設計手法として逆転の発想からRISCプロセッサという高速処理アーキテクチャが提唱され、複雑化していたi386に対して対極的な存在として注目を浴びていまいした。

 

インテルは、そのRISCプロセッサの仕組みを大胆に取り込んだのです。それがIntel486プロセッサでした。内部はRISC、ユーザから見える部分はCISCとたいへんユニークな形になりましたが、両方のいいとこ取りになり、それまでの386プロセッサの処理が大幅に引き上げられました。

 

そのプロセッサの性能向上とDX2やDX4にみられる倍速・4倍速クロックによる性能向上が効果を現したのが、1995年に登場したMicrosoft Windows95でした。 現在のWindows操作方法の元祖であるWindows95は、起動にMS-DOSを必要とせず、スタートボタンから全てを操作できる方式で、また全てをアイコン化した画面によりマウスを効果的に使いこなせる設計になっていました。こうしたグラフィックスなどを高速に動作させるために、i486プロセッサはユーザから広く受け入れられ、従来の286パソコンや386パソコンからの買い換えが進みました。

i486もまたi386と同様ファミリープロセッサを生んでいきました。

  • i486DX...............基本の32ビットプロセッサ
  • i486SX...............浮動小数点演算機能のないi486
  • i486SL................i486DXの省電力タイプ
  • i486SX(J)............NEC PC9801NS/R専用。16bitバス
  • i486DX2..............DXの倍速クロック版
  • i486SX2..............SXの倍速クロック版
  • i486DX4..............DXの3倍速クロック版
  • DX2ODP..............オーバードライブ・プロセッサ
  • DX4ODP..............オーバードライブ・プロセッサ
  • SX2ODP..............オーバードライブ・プロセッサ
  • i487SX................数値演算機能を追加するプロセッサ
  • i487SX2...............数値演算機能を追加するプロセッサ
  • i486SXSF.............組込み型やモバイル機器用超低消費電力
  • i486GXSF.............SXSFの16ビット・バス版

これらi486系プロセッサを見るとわかるのですが、i386時代以上に多種多様なラインアップを揃えていったことがわかります。i386SL(98)に続いて2度目で最後のNEC PC-98シリーズパソコン向け専用プロセッサの開発(インテルジャパンのデザインセンター)やクロック倍速技術による性能の向上、CPUを差し替えてしまうという少し乱暴だけれどわかりやすいパワーアップ、SX/DX/DX2など、パソコンの製品ラインに厚みを加えるCPUの差別化、そして明確に組込み型専用として新しい世界を切り開く試みなど、i486というコア技術をいくつものビジネス・チャンスへと広げていく方針は、まさにインテル社のマーケティング戦略のしたたかさと言うことができると思います。

左:i486SXSF 中央シリコンと右:i486SX
左:i486SXSF 中央シリコンと右:i486SX

Pentiumプロセッサの登場によりパソコンの使命が終わった1996年頃から、i486は過去のi386同様組込み型市場で活躍を始めました。それに伴いインテルも準備を進めていた組込み型専用のi486SXSF、i486GXSFを市場に投入しました。

 

このi486SXSF/GXSFはもともとマイクロソフト社と共同でノートパソコンとは異なる新しいモバイルプラットホームの実現へ向けて開発を進めてきたプロセッサで、インテル日本法人のデザインセンターにより開発されました。画期的な点としては、486系としては初めて完全なスタティック設計かつ低電圧駆動による超低消費電力化をはかる一方で、CPU動作中にクロックを可変させることによりダイナミックに性能や消費電力を可変させることができるようになった点です。この二つのコンセプトはいずれもその後のプロセッサにおける定番機能として応用・定着していきました(ただし回路上の仕組みは異なっています)。

 

i486SXSF/GXSFは初期のPDAやNECモバイルギアという一般向けメール端末、郵政省の簡保端末などに採用されました。それらの端末の多くには、ROMに収められたMS-DOSが基本OSとして動作していました。このプロセッサを開発した後、インテルジャパンのデザインセンターは解散となり、以後同社は日本国内でのプロセッサを開発することはなくなりました。 

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