キヤノンは 1976年に画期的な電子制御カメラCanonAE-1を送り出すと、直ちに電子制御方式そのものの改良に取りかかります。それはアナログ制御からフル・デジタル制御への転換でした。AE-1でアナログ制御とはいえ自動露出演算に加えて諸動作のシーケンス制御を実現していたキヤノン開発陣からすれば、当時脚光を浴びつつあったマイクロコンピュータによる全体の制御という考えは当然の帰結だったかも知れません。マイクロコンピュータによるカメラシステムの全体制御は、現代のデジタルカメラ等でも基幹技術として使われていますので、この Canon A-1はマイクロコンピュータ制御カメラの原点であったと言えます。
こうした完全デジタル制御システムの導入に際しては当然 AE-1で成し遂げたことを参考にはしたと思いますが、その中身は全く異なる新規開発でした。それは増幅器や比較器などアナログ回路を中心にまとめ上げたAE-1に対して、デジタルデータをソフトウェアにより処理する方式という全くコンセプトの異なる方式への転換だからです。これを、なんとわずか2年間という短期間のうちに開発を終え、発売へとこぎ着けたキヤノンの技術力に業界は再び震え上がりました。
1978年(昭和53年)4月にCanon A-1はこうして発売されました。
単にマイコン制御に変更しただけでなく、さまざまな新しい機能を付け加えました。それら新技術の多くは現代のカメラへと受け継がれています。
ここで A-1は、現代私たちがデジタル一眼レフなどで普通に使用している数々の機能を初めて確立しています。たとえばPモード(プログラムAE)は、特に初心者の方やスナップ撮影によく使われていますし、撮影シーンなどに合わせてマルチモードAEは常識の機能です。ファインダー内情報は液晶表示にはなりましたが、今も変わらずデジタル表示ですね。こうした機能は A-1に始まったわけです。
フルデジタル化され、マイクロコンピュータを導入することで多くの内部メカニズムをソフト化したという変革を成し遂げたCanon A-1には【カメラロボット】というコピーが付けられましたが、そうしたデジタルイメージ以上にA-1というカメラは、Aシリーズというアナログボディを身に纏いながらデジタルEOSのご先祖様という内面を思うとき、紛れもなくこれがキヤノンの血統だということを再認識させられます。
Canon A-1は電池の消耗が激しく、すぐ電池を使い切ってしまう欠点をよく耳にします。AE-1と比べてどうして電池の消耗が激しいのでしょうか?これも正確な情報がないのですが、おそらくマイクロコンピュータを導入したことにあると思います。当時マイクロコンピュータや関連素子、メモリ等に採用されていた半導体は PMOSもしくは NMOSというタイプのもので、現代のマイコン (CMOS) にくらべて遙かに消費電力が大きかったのです。しかも当時の論理回路は5Vという電圧がすべての動作の基本であったことも理由の一つでした。考えてみれば当時理工系の学生達が愛用していたプログラム電卓も電池が持たないと不満を漏らしていたものです。現代ではCMOSという原理的に低消費電力な半導体が使われ、表示装置もLEDから液晶に変わったこと、さらに電池も容量の大きなリチウム電池などを使うことによって、電池の持ちは大きく改善しています。