Canon AE-1が発売されて半年以上経った年の暮れ、1976年(昭和51年)12月に、輸出専用モデルとして、欧米地域でのみ発売されたのがこのCanon AT-1です。キヤノン博物館の説明によれば、AE-1発売後もマニュアル露出機種を望む声が強いため、その要望に応えるために開発して発売したそうです。Canon New FTbはこのときまだ併売されており、さらに同じ年にわざわざFTbの低コストモデルであるTLbを発売したキヤノンが敢えてAE-1の筐体を流用してまでマニュアル露出専用機を追加発売したのかは興味のあるところです。
露出計は追針式TTL開放測光とFTb系と同じですが、FTb系のような中央部分測光方式ではなく、AE-1と同じ位置にFTbと同じCdSセルを配置して、中央部重点平均測光方式による露出計を内蔵するという変わった機種でした。面白いのはオプション系で、AE-1のオプションであるワインダーやストロボ(フラッシュ・オートも含む)などがそっくり使用できた点です。これらのオプションはAE-1搭載の電子演算装置による自動制御を前提に開発されているわけですから、もしこのAT-1が単なるFTbをAE-1ボディに詰め込むための改造を行ったモデルではなく、AE-1開発と平行してAT-1も開発されたのであろうと思われます。もちろんキヤノンの海外営業拠点も、開発当初から仕様について関わっていたはずなので、その時点でAE-1だけでなくマニュアル機を強く要望していたのだろうと推察されるのです。
このAT-1の存在は相当長い間知りませんでした。コレクションに興味を持ち始めて調べだしてからのことです。都内の有名な中古カメラ店でも見たことがありません。過去米国出張時に現地の中古カメラショップで探してみましたがありませんでした。今も国内ではレアな存在で、オークションで見かける程度です。そうして手に入る個体も程度のいいものはまずありません。ここに紹介している個体もオークションで入手したものですが、最初に購入した個体が相当使い込まれていてボロボロでしたので、買い増しを余儀なくされ3回目にしてやっとマシな個体に巡り会えたという有様です。
FTbを買ったときもしAT-1があったらどうだったでしょう。AE-1と同サイズの小型軽量ボディに相当惹かれたかも知れませんが、そのときはFT以来の中央部分測光方式の信者だったので、中央重点平均測光は選ばなかったかもしれませんね。でもワインダーなどが使える上にAシリーズ専用スピードライトなども使えるし。とりわけ小型なボディは手にしっくりと収まるし。う~ん、微妙です。