1971年3月、CanonはTTL開放測光方式の採用とともに、カメラボディとレンズを一新しました。それはキヤノン初めてのプロ用カメラである、Canon F-1の登場と同時でもありました。また従来のFシリーズからFTQLが開放測光に対応したCanon FTbへと進化をしたのです。
それまでのFLレンズはすべてTTL開放測光に対応したFDレンズへと進化するとともに、レンズの種類も大幅に拡充されました。従来FLレンズで評価の高かったものは、基本設計をそのままに開放測光へと進化しただけでなく、当時技術の確立した光学ガラスへのマルチコートを導入し、S.S.C.(スーパー・スペクトラ・コーティング)と名付けられました。
このページでは、特にFDレンズ誕生の頃からNew FDレンズが登場するまでの、俗に旧FDレンズと呼ばれるレンズ達を扱っています。FDレンズになってからは、レンズ技術も革新が進み、マルチコートや非球面レンズなども誕生しますが、スピゴット・マウント形式はFLレンズから継承しており、Rレンズと共に3世代のレンズをそのまま使えたのも特徴でした。
FDレンズではFLとは異なるレンズの操作体系を提唱していました。絞りの連動リングはなくなり、絞りリングがその代わりに距離計と固定リングの間へと変更になりました。その絞りリングにはレンズの焦点距離が緑色で印字され、一目で装着したレンズが何であるのかわかるようになっていました。
このFD55mm F1.2 SSCは、F-1/FTb登場後2年経過した1973年3月に登場しています。それまではFL55mm F1.2の光学系をそのまま引き継いだFD55mm F1.2でしたが、FD50mm F1.4系と同じくマルチコートが施されています。外観的には、それまでの初期型ではレンズ鏡胴前方部分がクロムメッキであったのが、艶消し黒色塗装へと変更されています。
基本はFL55mm F1.2と描写は似ていますが、マルチコートの高価もあり、カラーバランスが大幅に改善されたほか、解像度なども大きく改善されています。
FD50mm F1.4は、登場した1971年はまだマルチコートに対応していませんでした。2年後の1973年3月にF1.4 SSC I 型がFD55mm F1.2 SSCと同時に発売されますが、何か問題があったのでしょうか、わずか3ヶ月後の同年6月に II型が発売されました。I型以降はマルチコートとなります。また鏡胴最前部(レンズ前群)はそれまでのクロムメッキからマットブラック塗装へと変わりました。
マルチコートを施されたFD50mm F1.4 SSCは、カラーバランスにおいてISO標準を達成しており、以後のFDレンズからEFレンズへと至るレンズ群の基準レンズとなっていきます。特に50mm F1.4系は、光学系を受け継いで現在のEF50mm F1.4 USMへと続いてきたのです。
また、このレンズは専用のストロボを使用することで、フラッシュ使用時のTTL測光を可能にするアダプター取付用の爪がピントリングに設けてあるのも特徴です。
写真のレンズは、初めて父親に買ってもらった、Canon New FTbと一緒に購入したレンズです。以後EOS 630を購入するまでずっと活躍してくれた、想い出に残るレンズです。50ミリに始まり50ミリに終わる、という当時語られた標準レンズの奥深さを感じさせてくれた銘レンズだと思います。