Canon New F-1

1981年(昭和56年)9月発売

Canon New F-1 AE Motor Drive FN
Canon New F-1 AE Motor Drive FN

1971年に発売されたCanon F-1は、キヤノン初めてのプロ向けシステム一眼レフとしてグラビア写真やファッション系プロ撮影家を中心に広く使われてきました。それまでのメカニカルカメラとしての集大成でもあったF-1は、1960年代の精密光学技術を結集した名機と言えるでしょう。


この初代F-1では、キヤノンは10年間はモデルチェンジをしないと約束してきました。途中1976年に一度マイナーチェンジを受けますが、システムの根幹には手を付けず、使い勝手の部分だけを向上させるに留めました。

 

そして、F-1発売後ちょうど10年後の1981年9月、システム全体にわたり新技術を投入しリニューアルされた、Canon New F-1が発売されました。新たなるフラッグシップ・モデルの誕生でした。既にCanon A-1をはじめ、マイクロコンピュータを使用したカメラのデジタル制御の時代に突入しており、そうした電子化技術と精密光学技術をどのようにプロ用カメラとして生かしていくのかが問われる時代にもなってきていました。加えて時代は確実に自動化の道を歩み出していました。AE(自動露出)は当たり前で、残されたオートフォーカスの開発も盛んになっていたというのがこのNew F-1誕生前夜であったのです。

 

これに対してキヤノンがNew F-1に求めたのは、あくまでプロフェッショナル用としていかなる過酷な状況下でも撮影を敢行できる極めて高い信頼性でした。そして最新デジタル制御技術を補完的に組み合わせたボディを完成させたのです。

  1. 高信頼性、高耐久性のための部品素材の選択とシステム・アーキテクチャ。
  2. 従来のF-1と同様、プロカメラマンの要求に応えられるシステムカメラ機能を継承すると共に、各ユニットを今まで以上に高精度・高信頼度をもって組み合わせられるように設計したこと。
  3. 最新技術を投入した、露出計の自由度、AE化のモジュラー化を進めること。
  4. デジタル技術を応用して、より一層の高精度化を推進すること。
  5. できるところは小型軽量化を推進すること。

高信頼性とは、単に防塵・防滴とか、環境温度に対する耐性ばかりではありません。撮影時に万が一電池が消耗してしまったとき使用不能になるのではプロ撮影として使い物にならない、従ってバッテリーがなくてもきちんと写真機として動作しなければならないという点だけで、メカニカル・シャッター動作を敢えて残しデジタル電子制御とのハイブリッドにするという技術的にも難しい道を選んでいます。そのため、Aシリーズのように電子制御に割り切って大幅な部品点数を削減することはしないけれども、機能を洗い出して電子化するところは思い切って電子化するという合理的なハイブリッド設計をしていることがわかります。

 

また面白いことに、このNew F-1では、モータードライブユニットもしくはワインダーユニットを装着すると自動的にシャッタースピード優先AEシステムが使えるようになり、AEファインダーユニットを装着すると絞り優先AEが使用できるようになります。両方装着すると両優先AEとなります。シャッター優先AEはスポーツ写真などの動体を素早く切り取る撮影シーンが多く、モータードライブなどを併用することも多いとの想定であり、絞り優先AEはボケの美しいグラビア写真や商品撮影で使われることが多いという想定で開発されたものと思われますが、たいへん合理的なシステム開発の一例として挙げられると思います。

露出計の自由度に関しては、他の一眼レフにはない大きな特徴として、ファインダースクリーンの交換により、測光方式を3通りに使い分けられる方式を採用したことです。中央部重点平均測光、中央部分測光、そして中央部スポット測光です。このためNew F-1の交換用ファインダースクリーンは、スクリーン板とともにコンデンサーレンズが一体化したユニットとなっていて、距離計一種類ごとに3種類の測光方式用ユニットが用意されているという手の込んだ方式でした。交換用スクリーンの種類は実に32種類にも及んでいます。これによってカメラマンは最も慣れた測光方式で、最も使いやすい距離計を選択できたのです。また測光センサーも精度の向上と公害対策からCdSセルを廃止しAシリーズ同様SPC(シリコン・フォトセル)に変更しています。1966年のCanon FT以来実績のあった中央部分測光方式は残しつつマルチ測光方式とするために、ファインダーのコンデンサーレンズに部分ハーフミラーを置くという手法をやめ、コンデンサーレンズと距離計スクリーンとの間にマイクロビームスプリッター(MBS)と呼ばれる微細格子上の反射板による測光センサーへの取り込みを開発しています。格子の作り込みによって画面中央スポット測光にも、中央部分測光にも、そして中央部重点平均測光にもできるという優れもので、これはNew F-1の大きなアドバンテージでした。

 

露出計はA-1のようなデジタル表示は見送られ、従来同様追針合致式TTL開放測光用メーターが搭載され、従来通りの馴染んだ露出計が使えるようになっていました。加えてAEモードになると自動的に絞り優先の場合にはシャッター速度が、シャッター優先の場合には絞り値がメーター表示される仕組みにもなっていました。これらのAEモードの制御や露出補正などを反映させるために本体にはデジタル・マイクロコンピュータが搭載されています。このマイコンにより、F-1では大がかりな連動メカニズムを取り付ける必要のあった自動露出(AE)機能やモータードライブ、低速シャッターの電磁制御やセルフタイマーの電子制御化などの大幅なメカニズム簡素化に成功しているほか、最新のスピードライトを用いた高精度な露出計連動機能も提供しています。

 

※この時計の時刻は、閲覧しているパソコンのものであり、必ずしも正確な時間とは限りません
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