Canon PELLIX QL

1966年 (昭和41年) 3月発売

Canon PELLIX QL (Canon FL55mm F1.2付き)
Canon PELLIX QL (Canon FL55mm F1.2付き)

【微光量の世界に進出した絶対測光!】

1965年(昭和40年)4月、ついにキヤノン初のTTL露出計内蔵カメラが発売されました。Canon PELLIX(ペリックス)というそのカメラは、単にTTL露出計を内蔵しただけでなく、たいへんユニークな構造を持った一眼レフカメラでした。

 

その最も特徴ある部分とは、一眼レフ特有の跳ね上げ式可動ミラーの代わりに、薄膜フィルムを応用した固定ハーフミラーとしたことです。一眼レフカメラはレンズを通過した画像をそのままファインダーで確認できるため、フォーカスが合わせやすく、フレーミングを確実にファインダーで決められることが最も大きな利点と評価される一方で、シャッターを切ったときにミラーが跳ね上がってしまいファインダー像が一瞬消える(ブラックアウト)ことと、ミラー動作のショックが大きく動作音も大きいことが欠点とされていました。

 

そこでキヤノンでは、それらの欠点を解決すべくミラーを固定化する方式を編み出したようです。ミラーを固定化するにはファインダーへ向かう光とフィルムへ向かう光を同時に導かなければなりませんので、ハーフミラーを使わざるを得ません。そこでキヤノンでは米国デュポン社のマイラー・フィルムという特殊なポリエステル薄膜フィルムに蒸着コーティングを行うことにより、レンズを通った光の70%をフィルム側に透過させる一方で、30%をファインダー側に反射させることとし、ミラーボックス内に45°の角度で取り付けました。この固定ハーフミラーのことをキヤノンでは「ペリクルミラー」と呼び、以後プロ用特殊高速撮影カメラなどに装備されるなど、キヤノンのお家芸となっていきます。

 

その一方で、TTL露出計については、当時の主流であった絞り込み測光方式を採用。測光レバーを押している間だけレンズの絞り機構が作動し、シャッター幕(フィルム面)前面にCdS素子が立ち上がって、フィルム面中央約12%の部分の光を検出する中央部分測光方式でした。他社の測光方式では、ファインダー内のペンタプリズム付近に設置したCdSセンサーで画面を測光する平均測光や中央部重点平均測光などを採用しているのに対して、実際にフィルムに当たる光を測光するペリックスの方式は絶対測光ともいわれ、ペリクルミラー方式のカメラでなければできない方式として注目されました。

 

また、ハーフミラー方式のため普段フィルムを遮光しているシャッター幕には、常にレンズを通った光が届いています。そのことが場合によっては不用意にも太陽光などの強い光がシャッター幕に当たることで、それまでのCanon FX/FPなどで使われていた布幕方式ではシャッター幕が焼けてしまうなどの事故が想定されました。そこでPELLIXではシャッター幕として高価なチタン金属のシャッター幕を採用しています。また、撮影時ファインダーからの逆流光による光の被り防止のため、初めてアイピース・シャッター機構(ファインダー窓を閉じる仕組み)が設けられました。

 

PELLIX発売後、わずか1年後にマイナーチェンジが行われ、Canon PELLIX QLが発売されました。それがこの機種です。ユーザーのフィルム装填を簡素化するQL機構(Quick Loading)が備えられたほか、測光レバーにロック機能が備わり、測光中にレバーを押し続けなくてもメーターが動作し続けることが出来るため、ユーザーはシャッター速度や絞り値の設定に専念できるようになりました。この Canon PELLIX QL は、1971年にキヤノン初のプロ用システム一眼レフカメラであるCanon F-1が発売されるまで、キヤノン一眼レフカメラのフラッグシップモデルとして君臨しました。

 

しかし、確かに一眼レフの欠点を補う効果はあったペリクルミラー採用でしたが、逆にフィルムに70%の光しか届かないため F1.2のレンズは F1.4相当に、F1.4は F1.7相当の暗さになってしまうことや、ファインダーにたった30%の光しか届かないため、ファインダー像は常に暗くピントなどを合わせにくいなどの欠点が指摘され、すぐプロに受け入れられたかどうかは疑問なカメラでした。このモデルでプロカメラ市場をリードする Nikon に追いつき追い越すことは到底できなかったのです。

 

とはいえ、ペリクルミラーなどの先進技術をアピールポイントとして、技術力の訴求には一定の成功を収め、次のCanon FTという最初のヒット作へと結びつけたカメラであったことは事実と言えます。

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