キヤノンにとってT-50に始まるTシリーズは苦難の連続であったと思います。Aシリーズで確立した自動露出の技術を推し進め、フルオート露出としたT-50はカメラファンからそっぽを向かれ、慌ててモード選択できるT-70を出したものの失地回復は出来ませんでした。意を決してオートフォーカス(AF)に挑みましたが、その商品であるT-80は殆ど実験機状態。やっと気を取り直してもういちどプロカメラマンも欲しくなるようなカメラを目指したT-90で栄光を取り戻すことになります。
T-90はキヤノンとしてAFを除いたすべての電子化技術の集大成となるカメラであり、その操作性においてきちんと系統立ったボタンや表示、そして初めて電子ダイヤルという概念を導入しています。これらをよく見てみると、この後に登場した最初のEOSであるEOS650/620とたいへんよく似た操作体系となっていることがよくわかります。
そういう意味で、T-90はTシリーズの集大成というのではなく、その前から積み上げられてきた電子化技術を整理して新しい操作体系として再構築したモデルであり、それはそのままEOSに応用されていったと言えるものです。カメラボディのデザインも、このT-90で初めて採用したイタリアン・デザインハウス(ルイジ・コラーニ)によるもので、これも以後EOSに引き継がれていきました。
T-90は使い込まれているボディが多く、なかなか調子の良い個体に巡り会わないという話をよく聞きます。このボディはまだ入手したばかりなので、これからいろいろ使ってみようと思っています。