BOSEというメーカーは業務用スピーカーという分野で絶大な実績を持っている。飲食店、ブティック、カラオケはもとよりイベント会場やJR駅のホームなどにも使われている。また早くからパソコンのマルチメディア用スピーカーに着目してパワードスピーカーを商品化しているし、サラウンドスピーカーへの取り組みにも一日の長がある。
しかしいわゆるオーディオファイル向けのリスニングスピーカー分野では、好き嫌いと云うか賛否両論で、万人が認めるというわけでもなかったと思う。好きな人から見れば、BOSEはその音響理論やポリシーにおいてこれまでのメーカーが成し得なかった斬新な取り組みを行い、単に物理特性にこだわることなく驚く程小さなスピーカーからこれまた驚く程豊富な低音と目の醒めるようなボーカルを聴かせてくれることにその価値を認める。その一方でBOSEを嫌いな人は、BOSEの音は人工的な作り物に過ぎない、オーディオの原点である原音再生という目的から些か外れているのではないかと異議を唱える。
実は、僕は賛否意見のどちらも賛成なのだ。確かに一度BOSEを聴いてしまうとその満足感にどっぷり浸ってしまう。音楽という二文字が語るように、音を楽しむという点に立てばBOSEは間違いなく音楽を楽しめると言える。聴きたい音はきちん出ていて聞きたくない音はあまり出てこない。特にPOPSやROCK、JAZZ系などは得意中の得意ジャンルだ。ボーカルなんかはステージのPAミキサー卓でラインモニターしているほどリアルである。ボリュームを絞って聴くと、他社スピーカーと同じくやはりバランスを崩すが一般的なスピーカーにありがちなスカスカな音にはならず、低域なども結構踏ん張ってくれる。アンプ側で下手にイコライジングしたのとは本質的に異なりきちんとスピーカーから鳴っていると実感できる音である。ダンピングも良く少しもモヤモヤした感じはしない、デジタル音源に最適な音の鳴り方をしてくれる。
一方でクラシックなど広帯域でダイナミックレンジも大きく、それでいて繊細だったりするような音源には弱い。まるでクラシックコンサート会場にいながら、その場で無理矢理スピーカーから演奏を聴かされているかのような不満を感じるのである。
どうしてこのような違いが生ずるのであろうか。思うにBOSEは長年のPA用スピーカーとして実績を積む中で、無響室で測定するような物理的な特性よりも、むしろそれを聴く人間の聴覚という点での分析を徹底して行い、それをスピーカー単体での特性に合わせ込んだ設計を行った結果なのであろう。電気を通して聴かせる音楽はその特性も最初からわかっているがクラシックの場合には聴く人間の側で自然と音を選択して聴いているため、逆にバランスが崩れて聴こえるのかもしれない。だからBOSEスピーカーが奏でる音は『作られた音』なのだが、音源によっては聴いていてすごく心地良く楽しいのだろう。オーディオ機器やそのスペックのことはあまり気にせず心地良く楽しめれば良いとするリスナーにとっては、この音はBOSEでなければ絶対に出せないと感動するだろうし、逆にオーディオ機器はあくまで音源の通り忠実に再生すれば良く、勝手に解釈をして欲しくないというオーディオファイルにとっては誠に迷惑千万ということになるわけである。