コラム:BOSEとQC15ヘッドフォン ④

 どのヘッドフォンもそうだが、いや、恐らくどのスピーカーも同様だと思うのだが、購入当初のエージング(慣らし)は必要だと思う。そう思うようになったこともQC15を購入してからのことである。超高級ヘッドフォンならばメーカー出荷前にエージングを済ませてくるかもしれないし、事実MDR-CD3000は最初の音の傾向は変化していないのだが、このQC15に関しては使い込んで行くうちに音質変化(向上)したところをみると、恐らく数万円以下のヘッドフォンではメーカーでエージングなどをしてはいられないのだろう。

 

 ただしエージングしたからと言ってその素性が変わってしまうわけではないので、最初に聴いて納得できなければ使い込んでも納得するものにはならないと思う。オーディオファイル達は、ヘッドフォンを購入したら直ぐにホワイトノイズ(FMなどの局間受信ノイズ)などを入力して100-200時間も鳴らしっぱなしにするという、いわゆる強制エージングをするらしい。僕のオーディオ環境では残念ながらホワイトノイズを出す機器がない。FMチューナーで局間ノイズを拾えばホワイトノイズになるが、FM民放局が放送にコンプレッサーをかけ出してから失望してお別れをしてしまったのでチューナー自体が家にはない。FMの聴けるラジオは何台も持っているが、あくまでラジオなのであまり意味はないだろう。そこで最近では一週間以上CDをリピート再生させながらヘッドフォンの慣らし運転をしている。これが実際にエージングとして効果があるのかは不明だが、実際にヘッドフォンのボイスコイルを動かし続けることに違いはないから、多少は役立っているだろうと勝手に解釈している。少なくとも普通に使って一年もかかるなら、多少は短くなってくれればそれで良い。何れにしてもヘッドフォンを購入してエージングせずにろくな評価もせず短期間で手放してしまうのは勿体無いことだと思う。

 

 CQ15は基本的にオーバー・イヤー密閉式のヘッドフォンだから、環境音の影響を受けにくいのだが、さらにノイズキャンセル機能によってさらに環境音を電子的に引き下げてくれる。原理的にはヘッドフォンの左右のカップに仕込まれたマイクで環境音を拾い、DSPという専用の超高速信号処理専用マイコンで逆相信号を作り出し、それを元の信号に加えてヘッドフォンを鳴らす仕組みだ。外からイヤーカップの隙間を通して入り込んだ環境音を、その逆相音により打ち消してしまうのである。この技術は決して新しいものではなく、30年くらい前の高級車に搭載されたり今の携帯電話でもエコーキャンセル技術として当たり前のように使われている。会社で使われる会議電話にも搭載されているし、電子回路としてはアンプのノイズを消すためのNFBという技術もコンセプトは同じである。不要な音や信号に逆相の音や信号を与えて+/-ゼロにすれば良いというのだから分かりやすい。

 

 でもここで問題なのは、とにかく消すべき音を検出してから処理をして実際の処理が行われるので、必ず時間差が生じてしまうことだ。ヘッドフォンに入り込んだ環境音に対して全く同時に逆相信号を与えることができれば理想的だが、環境音やノイズを予測することは未来を予測することと同じでそれは不可能である。だがその差を無視できるくらい高速に処理を行えばいいわけだ。そこにノイズキャンセル技術の全てがある。少しでも間違えるとノイズキャンセルどころかノイズがエコーのように響いてしまう。また元の信号に逆相信号を加えるため、上手くない回路を使うとノイズを消したと同時に元の信号を劣化させてしまう。世の中のノイズキャンセル型ヘッドフォンがなかなか素直な音で鳴ってくれないのは、恐らくその辺りの技術や設計開発が相当難しいのだろう。

 

 そういう意味でこのQC15のノイズキャンセル技術は相当に秀逸だ。ノイズキャンセルを語る前にヘッドフォンとしてのソースを選ばない優れた再生をしてくれるということは、ノイズキャンセル自身の技術も相当上手くできているということに他ならない。そこで改めてこのヘッドフォンを見てみると、ヘッドフォンの電源を入れないと音が鳴らない仕組みになっている。よくこのヘッドフォンの評価で、常に電源を入れないと(つまり常にノイズキャンセル状態でないと)使用出来ないという点で残念だという評価を見かけるが、これはどういうことなのだろうか。

 

⑤へ続く

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