SONY Tape Coder for Professional
・TC-707SD
(昭和45年2月発売:S/SD/MC/FC)
¥125,000(発売当時の定価)
¥210,000(昭和53年頃の定価)
f特:20-30,000Hz (SLH, 19cm)
S/N:57dB
ワウフラッター:0.04%wrms
※TC-707には、用途により様々な仕様を持つモデルがありました。
-TC-707S 標準2トラック・ステレオレコーダ
-TC-707SD ラックマウント仕様
-TC-707SD-R TC-707SDに再生オートリバース機構付き
-TC-707MC 標準2トラックモノラルレコーダ
-TC-707FC フルトラックモノラルレコーダ
※TC-707をベースに4ch対応とした民生用モデルもありました。
- TC-9540 4ch録音, 4ch再生, 2chオートリバース再生, APSなどの
機能を搭載。
-TC-9520 4ch再生, 2ch録音, 2chオートリバース再生, APSなどの
機能をTC-707Sに追加したモデル
※また、このシリーズは海外でも販売されています。少なくとも下記のモデルの存在が確認されています。
-TC-650 TC-707Sの木製の箱を普通の木目調に仕上げたモデル
-TC-651 TC-650をオートリバース仕様にしてAPS内蔵とした
モデル
中学校のとき校舎が火災で焼失しました。それまでの校舎は明治時代に設立された時以来の由緒ある建物で、今思えば勿体無いことであったと思うのですが、それを機に新校舎が急遽設立されたので皆ある意味嬉しかったものです。でも旧校舎の教室にあったダルマストーブや、お弁当を用務員さんが温めてくれた想い出も懐かしいです。
さて、新校舎には新しくLL教室という英会話練習用の特別教室が設置されました。一人一人に専用の机が与えられ、そこにはカセットレコーダ付きの装置があり、マイク付きのヘッドセットを装着する姿はすごく新鮮でした。その生徒用子機は大学時代に偶然入手しましたので別途紹介したいと思います。一方教壇には大きなコンソール卓があり、英語の教師が各々の生徒の学習状況をモニターできるようになっていました。そこに数台のオープンデッキが設置されていたのが、このTC-707SDだったのです。
テープ走行操作ボタンは軽く押すだけで操作でき、ボタン自身が光る自照式でした。その頃既に録音は赤、再生は緑、早送りと巻き戻しは白など色分けされていて、その色の使い方は今でも録音機や録画機の標準となっています。その自照式ボタンは私の脳裏に深く刻まれてしまったのです。カッコいいな~。でも自分で所有できるなんて思いもしませんでした。
その後ソニーはこのTC-707の走行メカニズムを一部の民生用テープデッキに採用します。私の記憶では、一部を除きTC-9000番台のデッキが該当します。特に当時流行った4chのデッキ(TC-9540, TC-9520)はあの美しく光る自照ボタンも搭載していました。どう見ても共通部品を使っているようでした。それでも高価で手の届かなかった私は専らカセットテープを使わざるを得なかったのです。
このTC-707は、業務用途向けに開発販売されました。放送局やレコーディングスタジオ、公共・民間を問わずホールや学校などにも幅広く販売されたはずです。それまでの扱い方が少し面倒な業務用テープデッキに比べてプッシュ操作で使いやすくハードな使い方が出来るようになりました。基本は3モーター3ヘッドデッキなので、構造は比較的単純であることと、業務用途であることを考え内部の回路基板が機能毎にカード型になっており、故障した場合には直ちにバックアップ用に保存しておいた基板と交換するという極めてスピーディーな修理交換作業を可能としていたことが受け入れられたのだと思います。加えて様々な利用に対応するため、用途別の仕様に合わせたモデルがありました。MW(中波)放送局向けのモノラル・デッキ仕様、外部での録音向けの仕様、学校のLL教室での仕様に合わせたモデル等です。さらに機能的にもオプションでオートプログラムストップ(APS)などの機能を内蔵することが出来ました。メンテナンス性の良さはとにかく徹底しています。回路基板のカードスロット方式だけでなく、モータの交換のしやすさもそうですし、ヘッドやキャプスタン・ピンチローラ周りは一体化されたヘッドブロックで構成され、これも簡単に交換ができるなど、殆どの部品はユニット単位で交換が可能となっていました。そのためユニット化されたヘッド周りはヘビーデューティになっただけでなく高い精度を維持することが出来たという副産物まで得られています。こうした点はプロの利用者達に特に好評だったそうです。
現在確かな情報を調査していますが、発売は1970年頃で、製造販売の終了はなんと2000年に入ってからのことだと思います。30年余りという超ロングセラーであったということは、それだけ業界で広く受け入れられていたこと。そのために新機種への交換と云うよりはTC-707同士で新しく交換したり、増設したりという需要があったためでしょう。
2000年に入って私はネットオークションでTC-707が出品されていることを知りました。思い切ってバックアップ機も含め2台手に入れたのです。既にTC-707は生産が終わっていて新品では入手できませんでしたが、手に入れた2台ともまるで新品のような程度の良さでした。早速専門の業者さんに送りオーバーホールをしていただきましたが、部品交換は必要なく、調整のみで済むほどだったのです。ですからこれはTC-707SDとしては末期の個体であると思います。
このTC-707は今でも一部のスタジオやホールなどで音声記録用機器として使用されていますが、間もなくその役目も終えようとしています。スペック的には2トラ機ではあっても7号リールサイズで19/9.5cmという速度では、とてもレコーディングマスターには使えません。しかも今ではテープ自体を入手する事が困難になっているため、とても実用とは言えないのです。でもこのデッキで録音してみると、意外にもダイナミックレンジが広く、テープノイズも柔らかで聴きやすく、全体的にCDなどの尖った音が柔らかくエネルギッシュに鳴るのに驚かされます。7号とは言えリールが回っている感じも、いかにも音楽聴いてますという満足感を演出してくれます。
今更ですが38/2トラにも触手が動くものの、デカい重い、そして肝心なソースもないという現在ではちょっと尻込みしてしまいますが、マンション住まいの身にはむしろこのTC-707辺りがほどほどなのかもしれません。そして何より懐かしく憧れであった自照ランプの光が最も満足感を与えてくれています。
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