SONY カセットデンスケD5シリーズ
・ TC-D5
昭和53年5月発売
¥99,800
・ TC-D5M
昭和55年3月1日発売
¥105,000
※TC-D5の製造終了は昭和54年
(1979年)
TC-D5Mの製造終了は平成17年
(2005年)
TC-D5Mは、本格的なポータブル・カセットデッキである、カセットデンスケの直系最後の機種です。NHKなどの放送局で活躍した取材用のオープンリール型ポータブル録音機のことを「デンスケ」と呼ばれていた事はよく知られていますが、その名前を冠してカセットテープ方式のポータブルデッキ、TC-2850SD
カセットデンスケが発売されたのは間もなくオーディオブームが始まろうとしていた昭和48年(5月21日)のこと。発売されるや大きな話題を呼び爆発的なヒット作となりました。これがきっかけとなり、いわゆる生録音ブームが到来したほどです。
それまではポータブル型といえば普通のモノラルのカセットレコーダしかなかったところに、ステレオ録音は当然としてさらに、いきなり話題のクロムテープ対応、高価なフェライト・ヘッド搭載、そしてドルビー・ノイズリダクション搭載と、据置型と同じ機能や性能が盛り込まれたのです。加えてマイクもこのために新たにワンポイント・ステレオマイクという1本でステレオ集音ができるマイクも開発されました。
今思えばこの初代カセットデンスケは図体も大きく重かったのですが、人々はまるで自分が放送局の記者やディレクターにでもなったような気持ちで機材を抱えて外に飛び出し、小鳥のさえずりや渓流の流れる音、蒸気機関車の力強いドラフト音などを録音しては悦にいっていたものです。そして時代は生録ブームの到来。自然の音だけでなく各地で開催されたライブ録音会はもちろん盛況で、FMのエアチェックでは得られないダイナミックレンジの広い録音に感動したり満足したり。
そんな中に私もいました。
こうしたカセットデンスケの世界はソニー独り勝ちといっても過言ではありませんでした。TC-2850SDで始まったカセットデンスケは後継機や派生モデルを数機種送り出した後に全面的な改良が加えられました。より性能が高く、より高品質の録音再生ができ、より小さく軽くて、より電池の持ちがいい究極のデンスケを作ろうと考えたのでしょうか。戦後から録音機のリーダーシップには自負のあるソニーは当時のメカトロニクス最先端技術を投入してできたのが本機の前身である、昭和53年に発売されたTC-D5でした。それから2年後、メタルテープ対応などの変更を受けマイナーチェンジされたのが本機、TC-D5Mというわけです。
このモデルは昭和55年(1980年)3月に発売されてから販売を完了したのが平成17年(2005年)ですから、何と25年もの間生産を続けてきたという、驚異的なロングセラー・モデルです(マイナーチェンジ前のTC-D5を含めれば27年にもなります)。本機を手にしてみると、エレクトロニクス全盛時代の日本の技術や品質の結晶であるということがよくわかります。金属パネルとゴム系の滑り止めで組み合わされた外装は全くズレや歪みがなく、アルミ無垢削り出しのボリュームノブは触れる指にピタリと吸い付き、適度な重さで誤作動を防ぎます。各種のスイッチ類や入出力端子など徹底的に煮詰められ合理的かつ機能的に配置されたデザインはまるで業務用の計測器のようです。その小さなボディからは想像出来ない高品位な音の品質は、アナログ・カセットデッキの最後を飾るに相応しい、これぞまさに"Made
in Japan"そのものです。
当時の技術をふんだんに盛り込んで、さらに徹底的に造り込みの品質を追い求めたモデルであるからこそ、ソニーとしてもこれだけ長い間大切に守り作り続けてきたのだと思います。かつて誰かが言っていたのですが、所有するだけで満足感を得ることができ、そこにあるだけでその価値というものが香ってくる、まさにビンテージ・モデルという称号を与えるべき一品ではないでしょうか。
このモデルには、業務用の仕様品も存在します。TC-D5 PRO/PRO II (2機種)と云ってマイク入力をキャノン XLRバランス入力にしたものです。ただ他にはあまり目に留まるような仕様変更はないので、民生用メタルテープ対応のD5Mの方が使い勝手は良いでしょう。PROモデルは最後までメタルテープには対応しませんでした。
その後、ずっと後になって登場したDAT(デジタルオーディオテープ)デッキの殆どが修理不能になりつつあるのに、発売後30年も経過した今(2011年初頭現在)でも制限なく修理対応ができるこのTC-D5Mは、それだけで感動します。それだけソニー技術者達の思い入れも強いのだと思います。
※TC-D5Mはその後6年間の部品保有期間を経過した後2011年をもって修理サービスが終了となりました。
写真の個体は、奇跡的に未使用であった個体を偶然入手できたものです。こうした巡り合わせに感謝せざるを得ません。