SONY Digital Audio Cassette Corder
for Professional
・TCD-D10 PRO II
(平成3年9月発売)
¥340,000
このモデルは、2004年販売完了となっています。なお、修理も2010年3月に対応終了となりました。
ウォークマンタイプのポータブルDATレコーダー(DATウォークマン)はいくつかのモデルが販売されましたが、デンスケタイプ(ショルダー型)のDATレコーダーについては恐らくTCD-D10シリーズのみであったと思います。
まずは民生用のTCD-D10が1987年末に発売になりました。このコンスーマ向けモデルは当時のSONYの例に漏れず、可搬型フラッグシップ・モデルとして開発されました。普通であればそれ以後ボリュームモデルとして普及価格の機種が発売されるところだったのですが、TCD-D3に端を発したコンパクトタイプがカセットウォークマンの流れと共に需要が高まり、いわゆるDATウォークマンの進化が優先されることになりました。
ところがその一方でTCD-D10はカセットデンスケTC-D5が歩んだ道と同じくプロモデルへの進化を遂げます。それがTCD-D10 PROであり、ここでご紹介するTCD-D10 PRO IIだったのです。
私の記憶が正しければ、カセットデンスケの最終モデルであるTC-D5/MとTC-D5PRO/IIの相違点はあまり大きくはなく、マイク入力が平衡型のXLR端子になったことと、ヘッドが異なることくらいだったと思いますが、このDATデンスケであるTCD-D10とプロモデルD10PRO/PRO IIの間には大きな差があります。
その昔、取材用デンスケはおそらくワンオフに近い形で製作されていたのでしょうが、コスト低減のためにたいへん高価な金型などをコンスーマ・モデルから転用するという方法が定着したのでしょう。もちろんTCD-D10からの転用はこうした外面にとどまらず、電源部をはじめたいへん重要なメカデッキなども含まれています。
特にDATにとって重要なメカデッキですが、TCD-D10にも使われているこのユニットは元々DATレコーダーのフラッグシップであったDTC-1000ESからの転用とされ、4D.D.メカニズムが奢られています。これにより振動や衝撃、ローリングなど劣悪なテープ走行環境下にあっても精度が高くヘビーデューティーな運用に耐えるものとなっています。これらの基本的な部分はコンスーマー向けフラッグシップとして君臨したTCD-D10とその性能を共有しています。
ほかの分野でもそうですが、プロモデルはハイアマチュアにとっては憧れのものです。でもプロモデルだからといって必ずしも性能が最高レベルとは限りません。時にはヘビーデューティーが優先され、また時にはメンテナンス性が優先されたりします。大切に扱われることを前提としたプレステージ・コンスーマ・モデルとは大きく異なります。でも、このTCD-D10に関してはどうも音質と言った部分に関してもPROモデルは通常のTCD-D10とは異なり上質の部品が使われているようです。
とはいってもどちらもDATであり、またフラッグシップモデルでもあります。私のヤワな耳で聴いたところで、その違いがわかるほど差があるわけではありません。
このTCD-D10 PRO IIは、何と言ってもデジタル・インターフェースとコピービットの設定ができることが、その価値をいまでも衰えさせないことが強みであることに間違いありません。コンスーマ・モデルであるTCD-D10ではあくまでRCAケーブルによるアナログ接続しかできないのです。通常では生録をして帰宅したらテープを他のDATデッキに入れて編集するわけですが編集先のDATデッキやCDRに入れた途端、SCMSによりマスターコピーができません。でもPRO IIであればデジタルのまま他のデッキとの間で無劣化のまま編集を行えるし、必要に応じてSCMSにセットすることもできるのです。この有り難みは使ってみないとわかりません。私はプロスタジオではありませんが、同じコピーマネジメントのできる機器を多少有していますので(SONY CDR-W66やTASCAM CD-RW5000など)、その間での編集に利用しています。
TCD-D10 PRO, PRO IIは、その発売後十余年経過した2004年に製造終了となっています。その理由はどうも内部で使用されている電子部品の製造終了がもとであったと思われます。なにしろPROモデルはその価格は34万円と極めて高価であったため、コンスーマの手に届くものではなく、業務用ともなると出荷数量も極めて少なかったであろうことは想像にかたくありません。むしろ十数年にもわたり細々とでも電子部品供給を続けてきた部品メーカーには頭の下がる思いです。