SONY DAT Walkman
・TCD-D3
(平成2年10月発売)
¥98,000
※製造終了は平成4年(1992年)
世界で始めてのDATウォークマンです。新しいカテゴリーの機種を商品化するとき、SONYは思い切りコストをかけたモノ造りをしてきたと思います。全部挙げればキリがないのですが、例えばポータブルCDプレイヤーの元祖であるD-50なども気合の入った造り込みをしていましたね。
それまでのDATプレイヤーは高価でなかなか手の出せる代物ではありませんでした。でもこのTCD-D3を一目見たとき、そのスタイルに未来のオーディオの姿を予感して購入を決意したのです。逆に後継機として後年発売されたD7/D8/D100などはカセットウォークマンを大きくしたような形で好きにはなれませんでした。
光デジタルでCDからダイレクトに録音ができ、DATの特長であるスタートIDサーチなど便利機能も搭載。アダプター経由で赤外線リモコンなども使えて、デスクトップにちょっと置いてスマートに使いこなせたので、たいへん便利だったのです。その頃は賃貸マンションに独り住まいだったので、あまり大掛かりなオーディオ装置で大きな音を鳴らす事が出来なかった私には、ものすごく価値のあるテープデッキでした。
本当は家の中だけでなくモバイルで使う事も想定された設計だったのだとは思いますが、カセットウォークマンに比べて遥かに大きく重いフォームファクタであったため、全くと言っていいほど持ち出す事はなく、省スペースデスクトップとして重宝していたわけです。接続もミニコンポだったのでとやかく音質を論ずる事もなく、カセットよりはずっと音の良いデジタルメディアとして考えていました。DATを持ち出すのは数年後に商品化された再生専用DATウォークマンであるWM-DT1を購入してからの事でした。
その後本格的なDATデッキとしてDTC-77ESを購入するなどでこの重宝されたTC-D3はその役割を終え、今は思い出の名機としてコレクション・アイテムになっています。ところがメカトロニクスの塊であるDATデッキにとって、使わないという事はある意味致命的だったのです。TCD-D3の宿命的な問題と言われるCAUTIONエラーが出て動作不具合となりました。メカを取り外さないと修理の出来ないこのエラーは、今ではメーカーも対応してくれません。
でも、デジタルメディアでの録音再生に感動してテープを買い揃え新たな生録音への期待に胸を弾ませていた頃を思い出すと、今でも懐かしい想いで一杯になります。ほのかに青白く光るELバックライトの液晶に表示されるピークメータを眺めながら、とてもリッチな気分に浸れることが出来ました。
写真のD3は、独身時にお世話になった個体そのものです。もう動作する事もなく静態保存状態です。もう一つ、当時以降のソニー製ポータブル機によく使われていた、滑り止めのゴム状のコーティングがべとついて汚くなってしまいました。これももはや交換することもできません。スタイルは今でも気に入っているのに本当に残念です。後から知ったのですが、このD3には当時高級DATデッキに使われていた定評あるDAC(D/Aコンバーター)がそのまま搭載されるなど、音質においても良い評価がなされているようです。もう一度その音を楽しんで見たいものです。