SONY Worldband Receiver
・ICF-SW1S
(昭和63年1月21日発売)
¥49,800
※この製品の製造終了は1994年です。
カセットケース・サイズのBCLラジオです。
単にラジオの大きさが小さいというだけなら、3年前の昭和60年(1985年)1月にCasioから発売されたカードサイズのラジオのほうが、遙かに小さく薄いサイズを達成しています。でも、このSW1SはあくまでBCLラジオなのです。長波帯から中波帯、そして短波帯を受信でき、もちろんFMも対応する立派なマルチバンドラジオをこの小さなボディにまとめ上げたのは、さすがSONYというべきでしょう。
昭和55年に発売されたICF-2001(Voice of Japan)でSONYはPLLシンセサイザーチューナー(電子チューナー)の技術を確立し、これをBCL主力機である7600シリーズに投入したのが1987年のICF-7600Dでした。同時並行的にいかにもSONYらしく、いままでの技術では限界のあった、小ささ、軽さへの挑戦としてこのPLLシンセサイザー技術を応用したのがこのICF-SW1であったのです。
10キーでダイレクトに選曲できる操作体系はICF-2001ゆずりのもので、スピーカーからの音声とダイヤルを調整する指の先に全神経を集中させるBCLフリークの姿は一変することになりました。放送局の周波数さえわかっていれば、それを10キーで打ち込んで、無事に聞こえてくればよし、聞こえなかったら残念でした、というデジタル思考に変わっていったわけです。でもその当時は10キーでスパッと選曲できるスマートさに憧れたものです。それがカセットケースサイズに収まっているなんて。
でも残念ながらBCLラジオでは必須と言われた、SSB受信や同期検波などの機能がばっさりと切り落とされています。それでもできるだけ受信能力を高めるために、アクティブアンテナがパッケージに同梱されています。宿泊先のホテルで、窓際にアクティブアンテナを立てて、デスクの上にラジオを置いて日本からのラジオを聴いてくださいねという心憎い演出ではありませんか。実際、このモデルは海外に派遣された駐在員達の必携アイテムとして重宝されたようです。
この手の商品としてはめずらしい、いろいろなパーツが同梱されたシステムキットとして販売されたのも珍しいと思います。SONY製品で言うと、このSW1Sや後継機種であるSW100S、カテゴリは異なりますがDATデンスケのTCD-D10などがシステムキット構成のパッケージとして販売されたのを知っています。この機種では、本体にケース、ACアダプタまでは由として、アクティブアンテナ、RFアンプ、ステレオ・イヤフォン、そして全世界の海外向け放送番組一覧ブックなどが専用のアタッシュケースに収められています。
後継機であるICF-SW100SのほうがSSB/同期検波などもついてBCLラジオらしく、さらに小さいなどの改良が随所に見られるので、SW1Sは見劣りがしてしまうのですが、でもなぜだか私はこちらのSW1Sの方が好きなんです。あくまで真四角なデザイン、SONYのオーディオ機器に通ずるブラック塗装、わかりやすく大きい操作ボタンや10キーの配置など著感的に惹かれるものを感じてしまいます。
不思議なのはボリューム。これだけデジタル操作が進んでいるのに、音量ボリュームだけ原始的なアナログボリュームなのはなぜでしょうか?
その出で立ちはまるで昭和30年代のポケットラジオのようです。そのアンバランスなところがまたおもしろいのですが(笑)