NEC Bit INN         マイコンの聖地

それは、秋葉原駅前ラジオ会館7Fにありました。

NEC Bit INN パンフレットより (©NEC 1979年)
NEC Bit INN パンフレットより (©NEC 1979年)
NEC Bit INN パンフレット表紙
NEC Bit INN パンフレット表紙

1976年8月に8080Aマイクロプロセッサ拡販のための評価学習用キットとしてNEC TK-80を発売した日本電気は、サポートセンターやアンテナショップとしての役割を果たす目的で、秋葉原に「Bit INN」(ビット・イン)を開きました。1976年9月のことでした。場所は秋葉原駅電気街口の目の前にある、ラジオ会館の7階にありました。場所や運営に関しては日本電子販売という会社の全面的な協力の下で行われました。

 

そこではNECのマイクロコンピュータ・システム関連半導体製品や開発ツール、に関する資料・マニュアル類のライブラリ閲覧・販売、各種のセミナー開催、ハードウェア開発の相談、システム開発ツールなどの展示やデモ、そしてTK-80の修理サポート窓口など、日本電気のマイクロコンピュータ情報のすべてが集約されていて、技術的な悩み事はそこへ行けば殆ど解決するという画期的な窓口だったのです。

 

TK-80が予想を遙かに上回る普及を見せる中で、大多数のマイコン初心者達は組み立てに困り、インタフェースに困り、プログラミングに困り、様々な悩みを持ってBit INNへと駆けつけました。窓口の方々は皆親切に悩みを聞いてくれて的確なアドバイスをしてくれました。それがまた初心者達の安心感を生み、Bit INNへ行けば安心だ。困ったらBit INNに行けばいいと、次々に新しい初心者達を増やしていったのです。

 

もちろんプロのシステム開発者達も大いにBit INNを活用されたと思いますが、いつもBit INNの中にはマイコン少年たちもたくさんいて、目を輝かせて資料を読みあさったり、一人前の技術者のように窓口の担当者さんと話し込んでいる姿もよく見かけました。それはあの秋葉原のラジオストアやラジオデパートで店員さん達と親しく話し込んでいるラジオ少年達の姿によく似ていました。

 

1979年に衝撃的なPC-8001の発売があり、マイコン少年達は一斉にパソコン少年へと姿を変えて走り始めていきます。Bit INNもそれに従ってその姿を徐々に変え、TK-80/BSを中心としたマイクロコンピュータのサポートセンターから、PC-8001/8801などのパーソナルコンピュータを中心とするシステムのサポートセンターへと変わっていきます。

 

NECのパソコンが売り上げを伸ばしていくとともに、Bit INNもその規模が徐々に大きくなりました。その後名称もNEC Bit INN Laungeという形に変え、ショウルーム的な要素が大きくなっていきました。Windowsの時代となりパソコンがよりユーザ・フレンドリーになるとともに、Bit INNの初期の目的であったマイコンやパソコンの普及・サポートという存在意義は徐々に薄れていきました。

 

2001年8月31日、NEC Bit INN Laungeはその歴史的な使命を終え、新たにヤマギワと共同でNEC Bit INN Aiを中央通り沿いの秋葉原西口ビルにオープンすることで、ラジオ会館から去っていきました。

 

1976年当時のラジオ会館には、NEC Bit INNとともにマイコンショップをはじめ第一家庭電器などの電化製品販売店やオーディオ関連専門店、パーツショップなどが多数入居していたのですが、今ではご存じのようにフィギュアやアニメーションなどの新しい秋葉原のショップが占有し、ラジオ会館という名前をイメージすることはもはやできません。

 

NEC Bit INN Aiもまた移転に伴い客足にも大きく影響があったものと思われ、たった1年後の2002年10月をもって閉店のやむなきに至りました。

 

ラジオ会館の7階には、Bit INN閉鎖直後に「パーソナルコンピュータ発祥の地」というプレートが掲げられたそうです。なんだか芭蕉の俳句のような強者どもが夢のあと・・・という言葉が当てはまるような気がします。

 

それでも私たちマイコン少年にとって、NEC Bit INNはいわば聖地であり、学校であり、相談や悩み解決のの場所であり、ある意味マイコンに関する親がいる場所でもあった、そんな場所です。たぶんあの活気に満ちた雰囲気は一生忘れられないと思います。

 

今度、あのラジオ会館7階に行ってみようかな。もしプレートがまだあれば記念写真を撮りたいです。

2010年6月某日

 

所用のついでに、懐かしいラジオ会館へ寄ってみました。よく利用したエレベータもそのまま利用されています。目指すは7階です。

 

しかし残念ながらNECビットイン跡地は、ボークスというキャラクター・フィギュアショップになっていました。写真はビットインの入り口であった付近をエレベータ側から見た角度で撮影しました。

 

その周りや店内などを覗いてみましたが、マイコン発祥の地というプレートは見当たりませんでした。残念です。

日本電子販売株式会社のその後

NEC Bit INN創設に大きな役割を果たした日本電子販売という会社ですが、現在はPCテクノロジー株式会社とその社名を変え、今でも元気に活躍をしているようです。業務内容としてはITコンサルティング業務やPCの保守サービス業務、中古パソコンの流通、そしていまでもNECとは大きな関連を維持しており、NECコンタクトセンターの窓口業務の受託オペレーションを行っていると言いますから、あのBit INNの名残が業務に残っていると言うことですね。またリテイル業務も行っていて、秋葉原などにFIRST FRONTというお店を構えておられます。

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