80C196MC/MD/MHは、モータ制御用途に特化したアプリケーション・スペシフィック製品(ASSP)で、1991年に製品化されました。MCS-96 NMOSマイコンでは年を追うごとにモータ制御用途への搭載例が増えるとともに、モータ制御技術も進展し改良されたデバイスへの要望が高まっていました。インテル社ではそのような要望に応えるため、
日本の設計開発チームを使って専用のマイコンを作ったのがこのC196Mxシリーズであったのです。
80C196Mxシリーズでは、従来の汎用高速I/Oを廃止し、専用の出力波形生成器を開発。最新の誘導モータ用インバータ向けPWM出力が得られるようにしました。しかもソフトウェアからより簡単な設定だけで自由に波形を制御できるようになっているほか、制御できるモータも交流誘導形モータだけでなく直流ブラシレスモータやステッピングモータなど多彩な種類のモータ駆動制御ができるようになっています。
このデバイスはエアコンなど民生用機器はもとより産業用インバータや各種モータを使用する機器に数多く採用され、誕生後10年以上も幅広く使われました。またその後も中国国内の産業界にも広がり、このデバイスを使った学術研究も行われ、研究論文が出ているくらいです(日本国内でもセットメーカ各社より87C196Mxを応用した特許が数件登録されています)。
80C196MCとMDの違いはI/Oポートの端子数くらいで、基本的にC196MDはMCに対して機能面での上位互換性を有しています。一般のインバータやエアコン室外機にはMCが使われ、PWMによるマルチDCモータ制御を行ったりエアコンの室内機用途にはMDが使われました。C196MHはC196MDに対して内蔵ROMの上位互換性を有しています。パッケージとしては日本市場向けということで64ピンSDIPと80ピンQFPの2種類が用意されていました。
また、本製品はROMタイプとして全製品がOTP-ROM(One Time Programmable ROM)を採用し、マスクROMやROMなしタイプは製造されませんでした。従って80C196Mxと便宜的に呼んではいても実際には全品が87C196Mxということになります。
モータ制御用80C196Mxファミリの次として日本市場向けに開発されたのが、ハードディスク・モータ制御用の80C196HDです。その発表は80C196Mx発表の翌年、1992年のことでした。1990年初頭に80C196KB/KCといったCMOSタイプのMCS-196製品が登場してから、その高速制御能力が評価され世界中のHDDメーカからC196KCの採用が相次いでいました。日本の大手HDDメーカも3.5"や2.5" HDDのモータ制御に80C196KCを応用し始めていました。
そんな中で、より一層使いやすいHDD向けコントローラとしてインテルジャパンのデザインセンターによりC196HDは開発されました。C196Mxと異なりC196HDで狙った点は、非常に高速なアナログ・インタフェースでした。高速・高解像度なA/D変換、D/A変換、アナログコンパレータやオペアンプといったアナログICの機能をデジタル半導体技術で作り込んでしまおうというものです。つまり今で言うところのデジアナ混載チップということになります。1990年代初頭の技術ではそうした混載チップを高いレベルで集積・実現しているメーカはまったく存在せず、達成は極めて困難であると思われましたが無事に完成し、1993年から最先端の容量を持つ2.5"HDDに搭載が始まりました。
HDDの世界は技術の革新に対する速度が速くメーカ同士の競合も厳しくて、まるで生き馬の目を抜く世界なのですが、C196HDは搭載されるHDDの容量も進化させながら、数年ほど仕様が続けられていました。HDDですから年間出荷数量は極めて多かったはずです。
用途として小型のノートパソコン向けHDDということでパッケージも特別に100ピンSQFPを採用しています。これは当時の組込み技術としては最先端の、0.5mmピッチという極小パッケージで、まさに最先端のボード・アセンブリ技術を要求するものでした。
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