コンピュータ・システムの大きな3つの要素であるCPU、メモリ、I/Oをひとつの半導体上に集積したデバイスのことをシングルチップ・マイクロコントローラと呼びます。日本国内ではワンチップ・マイコンと呼ばれたりもします。4ビット系から16ビット系まで豊富な種類とアーキテクチャがあり、標準汎用品からアプリケーションに特化したASSP(Application Specific Standard Product)、そして専用カスタムCPUに至るまであり、今でも日本の半導体メーカが得意な分野です。安いものでは工場出し価格でなんと10円以下のものまであり、こうなると本当に重さで価格を決めるネジ・クギの世界になっています。
もともとマイクロコンピュータ誕生のころは、主に電卓やキャッシュレジスタのためのカスタム製品として開発された場合が多く、テキサス・インスツルメンツ社のTMS-1000やインテル社のi4004/i8008などはいずれもセットメーカの受託開発的な意味合いの強いプロセッサ(マイコン)とも言えます。ですからマイコンがその後本格的にマイクロプロセッサとして本格的にコンピュータの道を歩み出した後も、各社は組込み型系(Embedded)向けのビジネスを常に追い求めました。
このMCS-48は、インテル社として初めて市場に投入した、8ビットのマイクロコントローラです。1976年のことで、既にi8080Aが大きな反響を呼んでいた最中でした。このときインテルではi8080A以降の進化(ロードマップ)として、コンピュータ向けの発展と組込み型マイコンとしての発展の二つの方向へと分かれていくことを決めました。そして前者がi8085/i8086へと進み、後者がMCS48という形になったのです。
MCS-48は全てをワンチップに収めるため、一つ一つの機能は複数チップで構成されるマイクロプロセッサ系よりも大幅に削減されています。その代わりたった一つのチップで全てをまかなえるため部品点数を削減でき(工数を減らせる)、しかも内部のソフト(ファームウエア)を変えることで仕向地に併せた特殊仕様を盛り込めるなどのメリットがありました。
MCS-48は内部メモリの相違や、ROMの種類、半導体プロセスの違いによりいくつかの製品に分かれます。
ROM タイプ |
ROM 容量 |
RAM 容量 |
NMOS | 高速NMOS | CMOS |
マスク | 1KB | 64B | i8048 | i8048H | i80C48H |
2KB | 128B | i8049 | i8049H | i80C49H | |
4KB | 256B | i8050H | i80C50H | ||
EPROM | 1KB | 64B | i8748 | i8748H | |
2KB | 128B | i8749 | i8749H | ||
ROMなし | --- | 64B | i8035 | i8035H | |
--- | 128B | i8039 | i8039H | ||
--- | 256B | i8040 | i8040H |
このうちCMOSタイプのMCS-48は初期にはなく、1980年代にインテルジャパンのデザインセンターが開発したものです。
MCS-48はそのセカンドソース品も含め様々な用途に使用されていますが、特にIBM PC/ATやDOS/V機とその互換機における、キーボード内部にあって、キーボードのエンコーダ(押されたキーに該当するキー・コードをパソコン側に送る)としての役割を担っています。 ただインテルオリジナル版は既に生産完了となっており入手することはできません。
i8041/42は、MCS-48/49の外部バスに改良を加えコンピュータのシステムバスに接続することができるようにしたものです。つまりコンピュータのスレーブ・デバイスとして周辺素子になることができるのです。しかもその機能をプログラムすれば様々な周辺素子として機能を変えることができます。これが製品コンセプトでした。バスのポートを機能変更した他は基本的にはMCS-48/49系と同じです。
このうちi8042はIBM PC/ATのキーボード・インタフェースとして本体側のマザーボードに搭載され、キーボード(内部はMCS-48/49)をコントロールする目的で使用されました。当然ながらPC/AT互換機やマザーボードにも搭載されたいへん多くのi8042が使われてきましたが、今のATXマザーボードには単独のi8042は使用されていません。実はその代わりにチップセット(サウスブリッジ、ICHなど)の中に集積され、今でも皆さんのパソコンの中で活躍しているのです。